蔵の中・子を貸し屋他三篇
友達の忘れ形見を育てている団子屋佐蔵は、生活苦から幼い太一を商売女に貸し、その謝礼で生計を立てている。
浅草を舞台として、銘酒屋の女と意気地のない五十男と孤児とが描き出す哀愁に満ちた「子を貸し屋」、雰囲気は庶民作家としての宇野浩二(1891‐1961)の真価を窺うに十分であろう。
別に作者の出世作「蔵の中」他3篇を収める。
「神経病時代」は広津和郎(1891‐1968)の文壇的処女作。
テーマを作者自身の身辺から取り、自主的な人間としての力を失い、神経病的な刺激によってのみ動かされ、自らは高き理想を求めながらも現実には多くの障害にはばまれ、前進することができない若きインテリゲンチャの弱さと苦悩とを描いている。
「若き日」は作者の青年期の自伝ともいえるもの。
嘉村礒多(1897‐1933)の作品は苦悩に充ちた稀有なひとつの魂の年代記でもある。
プロレタリア文学,あるいは「新感覚派」など文学の新たな潮流が隆盛にむかった昭和初期に,明治以来の文学伝統につかえる以外にしか自己を生かし得なかった彼は,私小説作家としてその伝統の掉尾を飾った。
本書には彼の全作品中の傑作といわれる「秋立つまで」他3篇を収める。
独得のユーモアとペーソス。
その底に光る厳しく冷静な人間観察の眼。
内外の文学を通じて比類のないユニークな作風をもって文壇に登場した作者の初期作品を中心とする短篇集。
岩窟にまぎれこんだまま成長して出られなくなった「山椒魚」の悲喜劇,都会的哀愁の漂う「鯉」など,九篇を収める。
人も知る釣りの名手井伏鱒二氏は、たんに技術にすぐれ獲物の量を誇るだけの名手ではない。
釣竿を手に、伊豆の山、甲州の川へと分け入る氏が、自分の釣り場を思い出しながら書いた随筆や短篇小説を集めたこの一冊は、釣りの世界を語りつつ、人生の諸相をあたたかいユーモアにつつんで巧みに描きだす。
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